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44話 ドレスに灯る喜び

Penulis: みみっく
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-04 06:00:35

「遠慮しなくていいよ。好きなものを買いなよ。……それ、ブロッサムに似合いそうだしさ」

 そらの迷いのない一言が、彼女の心に響いた。

 その瞬間、ぱあぁっと――彼女の顔が花のように綻んだ。まるで、諦めていた夢をそっと差し出された子供のように、その瞳が強い光を放ち、きらきらと輝く。これまで感情を抑えがちだった彼女の顔に、これほど純粋な喜びが浮かんだのは、そらが知る限り初めてかもしれない。

「……ほんとに、いいのかしら……?」

 ブロッサムは、信じられないといった様子で、もう一度そらに確認した。その声は期待に震えていた。

「もちろん」

 そらは、一切の迷いなく断言した。

「……ありがとう、そらさん!」

 彼女は、最高の笑顔と共に、心からの感謝を口にした。嬉しそうに、けれど神聖なものでも扱うように、ブロッサムはドレスをぎゅっと胸に抱きしめた。その小さな腕の中で、紫のドレスはまるで何にも代えがたい宝物のように見えた。彼女の全身から、満たされた幸福感が溢れ出していた。

 そんな彼女を見ていると、こっちまであたたかい気持ちになる。ブロッサムがこんなにも無邪気に喜んでくれることが、そらの胸にも温かい光を灯した。彼女のキラキラとした瞳や、ドレスを抱きしめるその愛おしげな動作の一つ一つが、そらの心に深く染み込んでいく。

 彼にとって「与える喜び」は、かつてないほど新鮮で、前世から抱えていた虚無感を埋める確かなものになりつつあった。それは、自身の圧倒的な力とは違う、穏やかで満たされた感覚だった。

「さ、他の子の分も選ばなきゃだよっ」

 そらに促され、ブロッサムは恥ずかしそうに頷いた。

「……はいっ!」

 満面の笑みで店に飛び込んでいくエルたち。ステフも控えめながらも、楽しそうに服を見て回っている。彼女たちは、まるで夢の中にいるかのように、次々と気に入った服を選んでいった。

 気づけばあっという間に、服や小物が会計台の前に山ほど積み上がっていた。その光景は、彼女たちの抑えられていた物欲が解放された結果を示していた。

 周りを見まわすと、彼女たちの年頃の女の子の可愛らしい服や普段着にパジャマや下着類が、文字通り店の棚から無くなっていた。その購買力は、店員を驚かせたに違いない。

 お金の問題は全くないが、さすがにこのまま大量の荷物を持ち歩くのは目立つ。そらはそう判断し、人目のない薄暗い路地裏に移動し、買ったものをまとめてアイテムボックスに収納する。一瞬で荷物が消える様子に、ブロッサムたちは慣れたように見守っていた。

 収納をするところを見ていたエルが、無邪気な笑顔で言ってきた。

「そらくんって便利だねっ!」

「……ん? なんか言い方おかしくない? 便利って、俺じゃなくて“収納が便利”ってことだよね?」

 そらは、エルの遠慮のない発言に、思わず苦笑いを浮かべながら確認した。

「あっ、そっちそっち! そう言おうと思ってたよ!」

 エルは慌てた様子で手を振り、嘘を隠すように明るく言った。その様子は、彼女がそらを心から信頼しているからこその奔放さだった。

「ほんとかよ……」

 そらは、エルのごまかしに気づきつつも、それ以上追求する気にはなれず、呆れたように呟いた。

 さて、次は――野菜と魚、それに調味料か。

 賑やかな市場へ足を踏み入れると、様々な食材の匂いが混ざり合い、鼻腔をくすぐる。活気ある人々の声や、魚を叩きつける威勢の良い音が辺りに響き渡っていた。

 そらは、食材の知識に長けたステフに聞きながら、新鮮な野菜を選び始めた。

「このキャベツは葉がしっかり巻いてて、色が濃いから新鮮です」

 ステフが真剣な眼差しでキャベツを手に取り、硬さや重さを確かめる。その手つきは、幼いながらも主婦のような手慣れたものだった。そらもそのアドバイスに従い、瑞々しいレタスや、土の香りがするジャガイモを籠に入れていく。

 続いて魚売り場へ。潮の匂いが強く漂う一角で、そらは元貴族のブロッサムに刺し身で食べられる魚を教えてもらった。

「そらさん、ご覧ください。この魚は目が澄んでいて、鱗が綺麗ですわ。きっと新鮮で、とろけるような食感ですわよ」

 ブロッサムは、並べられた魚を見下ろし、まるで宝石を選ぶように一点の魚を指差した。その魚は、銀色の体表が照明を反射してキラキラと輝いており、確かに見るからに新鮮そうだった。そらはそれを何種類か買い込み、さらに芳醇な香りを放つ調味料もいくつか手に取った。

 エルは、そんな二人の横で、見たことのない食材を好奇心いっぱいに覗き込んだり、屋台の焼きたてのパンの匂いに鼻をひくつかせたりと、市場の雰囲気を満喫している。

 全てを買い終え、再びアイテムボックスに収納する。

 うわぁ……これは楽しみすぎる。

 そらの胸は、すぐに始まるであろう美味しい夕食への期待で満たされていた。

「よし、そろそろお昼になるし、帰ろっか」

 そらは、買い物で満たされたアイテムボックスを確認しながら、声をかけた。

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